二つの石室が見学できる前方後方墳

 出雲には今市大念寺古墳上塩治築山古墳妙蓮寺山古墳(古墳名をクリックすると直接飛べます)など石棺が残る貴重な石室のある古墳がいくつもあります。その中でもかなり特徴的な薄井原古墳を今回は紹介します。墳長約50mの後方部の東西に一つづつほぼ同規模の石室が築かれてており、中でも東石室(第二石室、薄井原古墳調査報告書、島根県教育委員会、1962年)には組合せ式箱型石棺が置かれています。西石室(第一石室)は破壊がひどく石棺は残骸しか見ることはできませんが、ともに入口付近をコンクリートで補強したうえ保存整備されています。

 この古墳を見つけた松江市観光協会のHPによれば個人所有なので事前に許可をもらってくださいとのことでしたので教育委員会に電話してみました。すると草刈が終わっていませんがご自由にどうぞとの伝言とともに委員会の担当者から現地までの地図も送られてきました。実にありがたいことです。と、意気揚々で出かけたのですが生憎の雨。足下が悪い中緑の中を歩くのは結構注意を要します。以前、晴れていたのに両宮山古墳(岡山県、赤磐市)は田んぼの中の側溝に落ちてしまったこともあります。動画1の冒頭にあるこんもりとした森が目指す古墳ですが所有者宅の裏側を歩いていくと、大迫力の犬の鳴き声! ワンワン、ウォーと私を追っかけてきます。心臓がばくばく。一目散に通り抜けましたが、帰りはここを通らずに戻ろうと意を決しました。墳丘は左手にあることは何となく感でわかりました。シダに覆われた古墳に近づくとコンクリートの枠に覆われた東石室が見えました。といってもどこかの古墳石室のようにトーチカ状に周囲全体をコンクリートで覆っているわけではなく、必要最低限の補強です。全体に小型の石を丁寧に積み上げた全長8mほどの石室は一瞬緑泥片岩ではと思ったほど緑色に包まれていましたが実は苔の色でした。はっきりとした片袖式玄室の中央にはでんと縄掛け突起も観察できる組合せ式箱型石棺が置かれています。報告書によれば玄室に合わせるかのように手前の幅が大きく奥が狭い造りになっているそうですが動画を振り返ってみてもよくはわかりませんでした。見慣れた家形石棺とは違いまさに箱という感じですね。大念寺の石棺のような側壁の大きな開口部もみられません。

 後方部の丁度真裏の西石室は規模も東石室とほぼ同じ全長7.6mを測ります。残念ながら東石室と違い天井石は盗掘の際に抜き取られ、報告書によれば石室内に2枚が残され、墳丘斜面に2枚放置され、1枚は民間人が沓脱石として使用していたとのことです。今では現状のように復元されていますが石棺は破壊され遺物を観察するのみです。もっとも石棺がないために奥壁最下段の幅2m以上もある大型の横石を存分に見ることができます。残念だったのは緑に覆われ墳丘が十分に観察できなかったことです。測量図をもとに復元してみると墳長50m、後方部は20×30m 前方部幅は20mほどですから決して小型ではありません。時期的には最後の前方後方墳といわれ、地理的にも近い山代二子塚古墳とやや早い6C中頃と考えられているようです。アクセスは松江駅から一畑バスで美保関ターミナル行き(1時間に1本ほど)坂本下車、徒歩10分(撮影2016510日)。


薄井原古墳基本データ

所在地 島根県松江市坂本町

形状 前方後方墳

規模 墳長 50m、後方部30m×20m 高さ不明、前方部幅20m 高さ不明

東石室 長さ8m 玄室 手前2.m 奥2.3m 高さ2.4m 羨道3.6m

築造時期 6C央、西石室 長さ7.6m 玄室手前幅2.4m 奥2.6m

高さ2.6m 片袖 羨道幅1.6m 高さ1.4m

出土品 土師器等

史跡指定 県指定

特記事項 なし



にほんブログ村 歴史ブログ 考古学・原始・古墳時代へ
にほんブログ村