個人的に思いで深い巨大柄鏡形前方後円墳
 今回紹介する桜井茶臼山古墳は前期でも前半の4C初頭に築かれたといわれる墳長207mの巨大な古墳です。白石太一郎さん(近つ飛鳥博物館館長)の説明を借りれば「畿内でもとくに大型の前方後円墳は、その南部の大和川水系とその周辺に数多く営まれている」(古墳からみた倭国の形成と展開、敬文社、2013)のだそうで、西殿塚(アップ済の下池山古墳の墳頂からその遠景を捉えている、240m)、行燈山(崇神天皇陵、240m)、渋谷向山(310m)、アップ済の箸墓280m)、今回の桜井茶臼山(207m)、メスリ山(259m)の順で南から北に約7kmの間に各古墳が築かれているということになります。

南東方向に標高467mの三輪山を見ながらJR桜井線の長柄駅から歩き始めると巻向、三輪駅各駅近くに4基、少々離れて今回の桜井茶臼山とメスリ山が桜井駅近くにあることがわかります。それら大型の墳墓が1Cほどの間に造られているわけですから、はじめてそのことを知った時の私はこれはえらいところに来てしまったと思わずにはいられませんでした。遠目でも確認できる数々の墳丘はこの地周辺を支配した巨大権力者の墳墓に違いないと思ったからです。発掘調査で明らかになった豪華多彩な副葬品の数々からしても(4基は陵墓のため桜井茶臼山、メスリ山古墳のみ本格的調査が行われている)ヤマト政権の盟主の墓なのでしょう。白石さんは「ヤマト政権と呼ばれる畿内の大首長を中心とする首長連合の政治秩序と密接な関係をもって営まれていたものと考えられる」と述べています。つまりリーダー中のリーダー、大王、後の天皇と呼ばれる人々の墓であったと・・・。
 それほど日本の古代史にとり重要な今回の桜井茶臼山古墳の現状はどうなっているのでしょう。メスリ山とともに墳丘に登れるという意味でも大変意味のある古墳です。はじめて訪れたのは静止画像しか撮らなかった20132月でした。今回一部使っていますが草刈りが終わり冬枯れの姿はなかなかに印象的で後円部からすっと見通せる前方部に惹きつけられました。いわゆる柄鏡形の前方後円墳の特徴がよくわかったからです。その後、動画を撮りはじめてから1510月末、162月と訪れましたが動画でご覧のように、後円部に立っても草木の影に遮られて前方部への見通しが十分にはききませんでした。現在では草刈りは周辺住民に関係のある裾部に限って行っており、後円部、前方部の墳丘は対象となっていないのだそうです(奈良県埋蔵文化財担当)。でも熊笹を押しのけながら確認すると東側くびれ部分には遊歩道が作られているのです。妙な話でではないでしょうか。
 200mを超す巨大な墳丘を収めるには一定の距離が必要ですが、唯一のスポットが西側農地を挟んだ建機等のリース会社の敷地になります。トラクターやユンボが駐機している敷地は古墳には似つかわしくないのですがお断りをして撮らせてもらったのが動画1です。快く応じて頂きほっとしました。
 後円部中央にある長さ6.75m、幅1m-1.28m、高さ1.60mの竪穴石室(埋戻し)からは直径38㎝の大型鏡に復元できるものも含め銅鏡の破片17-8枚分や鉄製品、石製品が発掘された(桜井茶臼山古墳範囲確認発掘調査 現地説明会資料(2003324日)奈良県立橿原考古学研究所)ほど貴重な古墳ですが残念の一言です。こうして放っておくと環境は悪化するばかりです。既にはじまっていましたが西側農地には建物が建設中でした。民有地なのでやむを得ないとの行政の声が聞こえてきそうですが、きちんと古墳が整備されていれば周囲も景観とのバランスなど考えるのではないでしょうか。桜井市に聞くと奈良県が管理しているのでとつれない返事。奈良県は桜井市のほうで整備計画が出てこなければと、どこかでよく聞く話で終わってしまいました。白石さんの本はもとより古墳関係の書籍では必ずと言ってよいほど登場する桜井茶臼山古墳がこれでは可哀そうです。
 アクセスは桜井駅から東に徒歩で15分。駅前の観光所で地図をもらうとよいでしょう。ただ165号線は交通量が極めて多くしかも歩道がないとこともあります。十分気をつけてください。また墳丘への道は滑りやすく十分ご注意ください(撮影2016年2月24日)。


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桜井茶臼山古墳基本データ

所在地 奈良県桜井市外山

形状 前方後円墳

規模 墳長 207m、後円部径110m 高さ21.2m、前方部幅61m 高さ11

後円部三段、前方部 二段築成 葺石あり(埴輪なし)

築造時期 4C

出土品 後円部の竪穴石室から直径38㎝の大型鏡に復元できるものも含め銅鏡の破片17-8枚分や鉄製品、石製品等多数

史跡指定 国指定

特記事項 竪穴石室は長さ6.75m、幅1m-1.28m、高さ1.60mで壁面に朱塗布



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