石室に加え出土品も見応えのある古墳
本格的な冬が来る前にその横穴石室をどうしても訪ねたい。そう思っていました。目指す古墳は兵庫県といっても日本海側。鳥取のほうが神戸よりもはるかに近い山陰道(国道9号線)の途中、標高270mのところにあります。律令国でいえば但馬になります。多い時には積雪は1mを越すと聞き、早く行かねばと思う一方、遠い。二の足を踏んでいるうちに時間だけが過ぎていきます。丁度その頃、大阪梅田から高速バスで訪ねる方法を見つけました。JR西日本山陰本線の浜坂駅行きの高速バス1便に乗り福岡ハチ北口で全但バスに乗り換えれば、午後の早い時間には現地に着けることがわかりました(下調べでは香美町観光案内所にはずいぶんとお世話になりました)。
2018年11月27日。漸く実現した文堂古墳行きは晴天に恵まれ車中から見る晩秋の紅葉は見事でした。不思議なバス停名、福岡ハチ北口で下車し八幡山古墳公園を訪ねた後、全但バスで高井まで移動。動画1の映像はそこからです。思ったよりも住宅が立ち並び、狭い山陰道は結構な車の量です。山々が迫ってくるという感じではなく些か拍子抜けでした。善性寺の境内に目指す文堂古墳はありました。
墳丘は形状がよくわからないほど変形していますが、石室入口は南に向いてはっきり見えました。開口口は土砂の堆積のためでしょうか。狭く見えます。しかし少し進むとヘッドランプに照らされた羨道の先に玄室まで見通せる空間が広がっていました。床に敷かれた奥壁まで続く大小の礫が印象的です。多くの石室に天井に行くにしたがって内傾する持ち送りが見られる中、この玄室では2m×2mの鏡石に沿って側壁がほぼ垂直に立ち、まるで四角い箱の中に入った感じです。側壁を含め随所に巨石が用いられており、しかも表面は滑らかに加工されています。奈良県明日香村の岩屋山古墳(クリックすれば飛べます)のような精度の高い切石加工ではありませんが・・・。奥壁に立つと玄室幅が羨道幅よりも広い両袖式であることがよくわかります。入口に進むと動画のキャプションにも書きましたが羨道の開口部付近に頭大の石がいくつか並んでいることがわかります。閉塞石の残りなのでしょうか。
立派なのは石室だけではありません。香美町HPによれば鏡(珠文鏡)、武器(頭椎大刀(動画4)、双龍環頭大刀、圭頭大刀、鉄族など)、馬具(動画4)、装身具、土器など保存状態も良く種類も豊富な副葬品が出土しています(1948年と1970年)。2018年には大手前大学史学研究所と香美町教育委員会により出土品の再調査が行われた結果、但馬での地域支配者の系譜や被葬者の畿内政権とのつながりを知ることができる兵庫県内でも貴重な資料であることから、史跡文堂古墳とは別に県の重要有形文化財に指定されたそうです。村岡地区にある民俗資料館では動画4の後半で紹介しているように見事な出土品を目の当たりすることができます(実物は貸し出されていることが多く、これも出来の良いレプリカです)。出土品を古墳間近の資料館や博物館で見ることができるのは珍しく、その意味でも貴重です。文堂古墳訪問の際には民俗資料館をお見逃しなく(建物は1887年建造の郡役所です(撮影2018年11月27日)。
文堂古墳基本情報
所在地 兵庫県香美町村岡
形状 不明
規模 20m前後(冊子「文堂古墳」大手前大学私学研究所・香美町教育委員会2014)
石室 玄室 長さ4.63m 幅2.05m 高さ2.15m、羨道5.77m 幅1.53m 高さ1.76m
築造時期 7C前半
出土品 鏡(珠文鏡)、武器(頭椎大刀(動画4)、双龍環頭大刀、圭頭大刀、鉄族など)、馬具、装身具、土器(須恵器、土師器)
史跡指定 古墳、出土品ともに県指定
特記事項 村岡地区にある民俗資料館まほろばで出土品が展示
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